先端医療のルール-人体利用はどこまで許されるのか (講談社現代新書)

人の死んだ状態は明白なようで、あんがい明白ではない。実はそういうことが明らかになっていくに過ぎないのではないか。医者がご臨終ですというので、とりあえずは納得して死んだことにしていたのに、ご臨終ですといわないうちに死んだことにしなければならない状態が生まれてしまった。実は医者でなくとも、人が死んでいることぐらい普通ならわかりそうなものだけれど、確かに特殊な状態というのはあるということが、現実におこっている。しかしながらこの状態をつくっているのは、臓器移植という問題が生まれてから後に生まれた問題であることが、やはりどうにも複雑さを生んでいるようである。自分の中に他者を内包させて生きていくということが、移植を受けた人間に激しい葛藤を生むということはどういうことなのか。精神的に納得して移植を受けたにもかかわらず、物理的に自分の身体の一部として機能している臓器に対して他者を感じ取るという人間の精神性とはなんなのであろうか。死んだ人から臓器をもらったのに、死んだ人が自分の中で生き続けているという感覚を持つということは、実感としてあるのだという。そのことは、やはり人が死ぬということを生きている人間がいかに受け入れがたいこととして感じているかということにつながるのではないか。人は死んだ後もなかなか死なせてもらえない。生きている人間は、死ぬことを認めたがらない。そうして何とかして生き延びる方法を考えたところが、他者の死についても考えることになる問題をはらんでいる。