通貨烈烈 (朝日文庫)

本書は、プラザ合意からルーブル合意に至る、1985年から1987年に至る国際金融の政治学について、当事者へのインタビューを含む分厚い分析を行ったノンフィクションである。プラザ合意以降の円高が、世界経済のメカニズムを変えたこと、そしてそれが日本の世界経済におけるプレゼンスを急拡大させ、一方で国内的にはバブルの萌芽となったこと、これらについては異論は少ないと思われる。本書は、アメリカ、フランス、イギリスといったグローバルプレイヤーと、その中に参加しつつある日本や西ドイツ（当時）が、Ｇ７などの場でどのような行動をとったか、各国ごとの政治的背景を踏まえながら記述する。テーマは為替相場とマクロ経済政策。そんな中で国際的なプレゼンスを増していく日本と西ドイツ。この時代分析そのものも一読の価値がある。どのような政治的社会的な縛りの中で、それぞれのプレイヤーはどのような答えを出したのか。それに加え、現代的な視点～プラザ合意を遠因として引き起こされたバブルが急速に収縮し、10年デフレに呻吟する日本～から見ても、なぜあの歴史的なタイミングで、あのような決断がなされたかを読み返すのは知的に非常に有意義であると思う。顧みての歴史の証言として。今の鏡としての歴史として。日本のマスコミにおいても、これだけ質の高いものを書ける記者がいることは、一つの驚きである。何度も熟読玩味すべき質の高いノンフィクションであると思う。