逆説の日本史4 中世鳴動編(小学館文庫): ケガレ思想と差別の謎

私は、第１巻から第３巻までの古代編は楽しく読ませてもらってきたのだが、いよいよ中世編に突入した本巻は、少々不満の残る内容になってしまっていた。まず、『第一章古今和歌集と六歌仙編』において六歌仙を怨霊としているのは、前巻の最終章『万葉集と言霊編』において万葉集の最終的編纂者・大伴家持と歌聖・柿本人麻呂を怨霊としているのと全く同じことの繰り返しなのだ。六歌仙が藤原氏との政争の敗者であるとする筆者の説自体は面白いとは思うものの、六歌仙はその後の日本の歴史に何の影響も及ぼさない、いわば日本史上の脇役に過ぎず、私には、彼らが怨霊であろうがなかろうが、どうでもいいこととしか思えないのだ。『第三章源氏物語と菅原道真編』において源氏物語が「怨霊信仰」の産物だとしているのも同様であり、そうであろうがなかろうが、源氏物語の歴史的評価・価値には何の影響もない枝葉末節的なことに過ぎないと思う。筆者は、第一章の中で、「この逆説の日本史では、特にこれまで通説とされてきた部分について、私が異論を唱えるという形をとっているので、私が通説通りでいいと考える部分については、かなり割愛していこうと思っている」と言っている。それはそれで結構なのだが、そうであるならば、上記のような些細な問題に貴重な章を費やすのではなく、もっと日本史の根幹に関わるような大きな問題に絞って、筆者の持論を展開してほしいと思ってしまうのだ。また、『第二章良房と天皇家編』でも、藤原摂関政治の誕生から完成に至る経緯はしっかりと描かれていて面白いのだが、「言霊信仰」の解説にかこつけて、これまた前巻の最終章の繰り返しで、現代の平和憲法護憲派の軍隊（自衛隊）不要論批判の話に長々と脱線してしまっている。『第六章武士はなぜ生まれたのか編』になると、これがさらにひどくなり、今度は「ケガレ思想」の解説にかこつけて、本題そっちのけで、手を替え品を替え、ひたすら、護憲派の軍隊不要論と日本人の平和概念の歪みを批判している観があるのだ。私は筆者のこうした主張自体には格別異論を差し挟むつもりはないが（特に、当時の自衛隊不要論には時代を感じる）、ここまで脱線話がしつこいと、本巻は現代編ではなく、中世編だということをわきまえて書いてほしいと言いたくなってしまう。筆者は、『第七章平清盛と平氏政権編』で主張することを読者に納得してもらうためには、第六章を設ける必要があった旨を述べているのだが、そのメインのはずの第七章がわずか４２ページであっさりと終わっているのに対し、第六章に倍以上の９４ページも掛けている構成のいびつさの原因は、ひとえにこの脱線話のしつこさにある。本巻で指摘した問題は、実はこれまでの巻でも垣間見えていたことなのだが、特に、私的な主張を長々と繰り返す本巻の脱線話については、そのしつこさが度を越していたと思う。筆者は、今後も同じようなことを繰り返しているのだろうか？そんなことが気になり出した１巻であった。